アトピー性皮膚炎とは
・乳幼児・小児
かゆみを伴う皮膚炎(湿疹)で慢性的に症状がよくなったり悪くなったりを繰り返します。
皮膚が乾燥しやすく、また、バリア機能が弱い体質のため、外部からの刺激が皮膚の中に簡単に侵入して炎症を起こします。こどもの約10%にみられます。治療目標は皮膚の状態を正常に近づけ、日常生活に支障なく、薬物療法も必要としない状態になることです。皮膚からアレルゲンが侵入するので、皮膚の保湿はとても大切です。
この病気の特徴
- 肘の内側、膝の裏、足首の前、首の周り、頬などの皮膚にかゆみがある。
- 喘息や花粉症の既往があったり、家族にアレルギー(アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、喘息、アトピー性皮膚炎)の人がいる。
・成人
元々の体質として皮膚の乾燥とバリア機能の弱さがあり、皮膚にさまざまな刺激やアレルギー反応が加わって慢性的にかゆみを伴う皮膚炎が継続する状態をいいます。小児期から続く、思春期(13歳以上)以降のアトピー性皮膚炎は、頭部、顔面、頸部、胸・背部などの上半身に、乾燥し、皮膚が厚くなった症状が強く現れる傾向があります。また、顔を掻きつづけることで目に負担がかかり、「白内障」や「網膜剥離」などの目の病気を発症することがあるのでかゆみをコントロールすることが大切です。
この病気の特徴
- 上半身を中心に皮膚は乾燥して厚くなる。
- 頭を掻きつづけることで、髪の毛が抜けやすくなる。
- 眉毛の外側1/3がこすれて薄くなる。
- 顔があから顔になる。
- 首から胸にかけて細かくぽつぽつとした、褐色の「さざ波様」の色素沈着が生じる
病因・病態
アトピー性皮膚炎はアレルギー炎症、皮膚バリアの異常、かゆみの以上の3つの要素が互いに複雑に絡み合って起こる病気です。
治療方法
アトピー性皮膚炎を根本的に治す方法は残念ながらありません。そのため、アトピー性皮膚炎の治療は、皮膚のバリア機能を改善・維持するためのスキンケア、かゆみや湿疹症状を改善するための薬物療法、そして症状を悪化させる要因を排除することが治療の主体となります。
外用治療
外用治療ステロイド
アトピー性皮膚炎の炎症を充分に鎮静することができ、その有効性と安全性が科学的に立証されている薬剤です。近年さまざま製剤が開発されていますが現在も基本の重要な治療です。
カルシニューリン阻害外用薬(プロトピック®軟膏)
塗り始めて数日間、多くの方が刺激感を訴えることがありますが症状が軽快すると共に刺激感も改善していきます。顔に好んで使用されますが、その他の部位にも使えます。ただし、本剤の薬効はステロイド外用薬のストロングクラスとほぼ同等ですので、あまり重症度の高い皮疹では十分な効果が得られませんがステロイド外用剤の副作用のである長期外用に伴う皮膚の菲薄化がないため継続しやすい薬剤です。
JAK阻害外用薬(コレクチム®軟膏)
プロトピックに比べ刺激感を訴える方は少ないです。顔に好んで使用されますが、その他の部位にも使えます。ただしプロトピック同様に本剤の薬効はステロイド外用薬のストロングクラスとほぼ同等ですのであまり重症度の高い皮疹では十分な効果が得られませんが、ステロイド外用剤の副作用のである長期外用に伴う皮膚の菲薄化がないため継続しやすい薬剤です。
ホスホジエステラーザ4(PDE4)阻害外用薬(モイゼルト®軟膏)
アトピー性皮膚炎の病態には、サイトカインやケモカインと呼ばれる物質が関与しています。モイゼルト軟膏は、サイトカインやケモカインの産生を制御することで、皮膚の炎症やかゆみを抑え、アトピー性皮膚炎を改善します。この薬剤もステロイド外用剤の副作用のである長期外用に伴う皮膚の菲薄化がないため継続しやすい薬剤です。
AhR調整薬(ブイタマークリーム®️)
従来からあるステロイド外用薬や免疫抑制外用薬、JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬などとは異なる作用を持つ薬剤です。有効成分であるタピナロフはAhRを介して皮膚のバリア機能改善、抗酸化作用など今までの薬と違うメカニズムで皮膚炎を改善します。
内服治療
抗アレルギー剤
アレルギーを抑える目的よりも皮膚のかゆみを抑える目的で処方されます。しかし一部の方には有効ですがその効果は限定的です。
カルシニューリン阻害内服薬(ネオーラル®)
16歳以上のアトピー性皮膚炎患者さんに対して使用可能になりました。この治療は使用して3ヵ月以内に休薬することが使用指針により求められています。基本的に成人の最重症・難治例に対して短期的に使用するべきもので血圧の上昇や腎臓の障害などの副作用の確認のため服用中は定期的な採血を行います。
JAK阻害薬(オルミエント®、リンボック®、サイバインコ®)
アトピー性皮膚炎の発症にかかわる多数のサイトカインと結合して活性化するJAKというたんぱく質をブロックする薬です。現在オルミエント、リンボック、サイバインコの3剤が使用可能です。
ただし活動性結核、妊娠中、血球減少(好中球500/mm3未満、リンパ球 500/mm3未満、ヘモグロビン 8g/dL未満)、オルミエントは重度の腎機能障害、リンボック、サイバインコは高度の肝機能障害で禁忌となっています。そのためこの治療の開始前に検査が必要になります。結核についてはレントゲン(場合によりCT)や血液検査、ツベルクリン反応などを調べます。このような事前の検査を行い治療開始する必要があります。
注射治療
生物学的製剤とは
化合物(化学的に合成された物質)とは異なり、生物が産生する蛋白質などを医薬品として利用するものです。特定の分子を標的とした治療のために使われます。生物学的製剤は高分子の蛋白質のため内服すると消化されてしまうので点滴あるいは皮下注射で投与します。
デュピクセント(デュピルマブ)
アトピー性皮膚炎の皮疹やかゆみの原因になっている「IL-4」と「IL-13」というタンパク質の働きを直接抑えることで、皮膚の炎症反応を抑制するお薬です。これまで15歳以上の制限がありましたが、6か月以上のお子さんも新たに対象となりました。従来の治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎患者さんで強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者さんが対象になります。また原則としてこの治療中も従来の外用療法は継続していく必要があります。
デュピクセント自己注射の方法
ミチーガ(ネモリズマブ)
アトピー性皮膚炎のかゆみにはIL-31が中心的な役割を果たすと考えられています。ミチーガはIL-31受容体をターゲットとする薬剤であり、13歳以上の制限がありましたが適応拡大されて6歳以上のお子さんも新たに対象となりました。頑固なアトピー性皮膚炎のかゆみ抑制効果が期待できます。また原則としてこの治療中も従来の外用療法は継続していく必要があります。
ミチーガ自己注射の方法
アドトラーザ(トラロキヌマブ)/イブグリース(レブリキズマブ)
アトピー性皮膚炎の病態に関与するIL-13を選択的に阻害することで効果を発揮するお薬です。IL-13はIL-4と似た働きをしていますが、アトピー性皮膚炎の病態が作られる上で、IL-4よりIL-13のほうがより中心的な働きをしていることが知られています。アドトラーザとIL-13Rα2を阻害するのに対してイブグリースは阻害しません。IL-13Rα2はデコイ受容体とも呼ばれ、その役割が完全に解明されていないため、具体的な影響はまだわかっていません。アドトラーザは15歳以上、イブグリースは12歳以上(かつ体重40kg以上)の従来の治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎患者さんで強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者さんが対象になります。また原則としてこの治療中も従来の外用療法は継続していく必要があります。
ターゲット型ナローバンドUVB(TARNAB)
光線療法(紫外線療法)
紫外線療法は、光源ランプを用いて発疹に直接紫外線をあて、皮疹の改善、炎症の軽減、掻痒感の軽減を目的とした治療方法です。当院ではエキシマランプ2台(エキシプレックス308)、ターゲット型ナローバンドUVB照射装置1台(TARNAB)を用いています。
国内で新しく独自に開発された、312nmの波長の平面光源をもつ光線治療器です。特にアトピー性皮膚炎のかゆみには効果的で赤みや色素沈着などの副作用が最も少ないことが特長です。
エキシマライト、MEL(エキシプレックス308)
TARNABに比べ高輝度で照射することが可能で治療効果も高いと考えられています。また照射時間は短くなり効率的に治療は可能ですが施術による紅斑、色素沈着のリスクは高くなります。
アトピー性皮膚炎 光線治療法 症例写真
症例1
ターナブ30回照射
アンテベート軟膏(Very strong)
ザイザル
症例2
エキシマ7回照射
ターナブ9回照射
現在のところ、アトピー性皮膚炎を完治させる科学的に根拠のある治療はありません。そして明確な発症メカニズムは解明されていないため、確実な予防法はありません。しかし先ほど述べたように当院では症状のない状態を維持することを目標にしています。そしてその治療はさまざま製剤が開発されていますが現在もステロイド外用剤が基本と考えています。ステロイドの適切な外用指導を行ってそれを患者様が実践し継続して行えばまだ十分治療可能な患者様も少なくないと考えています。しかしステロイドがまだ不安で塗りたくない、時間がない、めんどくさい、べたべたが嫌いなどさまざまな理由で適切に外用を継続して行うことが難しく諦めている患者様も多くいると思っています。最近ではこれまでの治療法で十分な効果を得られないアトピー性皮膚炎に対し生物学的製剤や経口JAK阻害剤が使用可能となりました。しかしこれらの薬剤は保険適応があっても高額であり、使用できる患者様は限られていると考えています。このような経済的に難しい方でもさきほど申し上げたように同じステロイド外用薬でも使用方法を見直すことでよくなる患者様も少なくないと思います。治らない病気だと諦め、QOLが低いまま我慢しておられる患者さんも多いことと思いますが、ぜひ症状がない状態を目指してあらためてチャレンジしませんか?それを一緒に応援していくのが皮膚科医の務めと考えています。